初夢
母の夢を見た。
久しぶりに金縛り状態になり
息苦しさとともに目を開けると
そこに見えたのは
14年前に処分した函館の実家で
寝室のベッドから見ていた風景だった。
あぁ、夢を見ているのか…と思い
隣室の和室に目をやると
母が長年愛用していた赤いスカーフが
カーテンを広げたように揺らめいていた。
身体は動かないから
必死の思いで声を振り絞る。
ママ、ママなの?、ママだよね?
ママ、来てくれたの?
スカーフの後ろから
まるでこちらを覗くように
母の顔が現れた。
それは私が
母にいちばん側にいて欲しいと
願っていた当時の姿だった。
おそらく、
今の私と同じくらいの年齢だろう。
夢の中の母はとても美しかった。
母は大病を克服した後も
家業のために馬車馬の如く働いていた。
中学生にもなると
長年、身のまわりのお世話をしてくれていた
乳母のような方も来なくなり
私はほぼ毎日、
1人の夜を過ごしていた。
家業が商売をやっているのだから
両親が不在でも仕方がないことくらい
当時の私はよく理解していた。
寂しくても仕方がないのだと。
それでも時には甘えて
泣きごとを言うこともあったが
「パパもママも
あんたのために働いているんだよ。」
その一言が私を
「とても物わかりの良い子」にしてくれた。
ママ、来てくれたんだね。
ありがとう、ありがとう、
とても会いたかったよ。
そう言うと
母はスカーフの後ろから
こちら側に出てきてくれて
それと同時に
私の身体も動くようになった。
私はベッドから飛び起きて
母に駆け寄り、ハグをした。
か細い母の身体が
そこにはしっかりとあった。
とても懐かしい感触は
それが夢であることを
すっかり忘れさせてくれた。
おそらくその時の私も
10代前半の私になっていたのだろう。
寂しい夜、
ベッドの中で眠れずに
母の帰りを待っていた
あの頃の私に。
ありがとう、ありがとう、
ママ、会いに来てくれて嬉しいよ。
本当にありがとう……。
母は一言も話さなかったが
私の様子を見て
とても喜んでいるように感じた。
そのまま意識は自室の寝室へ。
目を開けるといつもの天井。
なんとなく境目のない感覚で
時計を見ると
午前2時を少し過ぎていた。
…あぁ、本当に来てくれたんだ。
いや、母はここに来たのではなく
私も母に呼ばれて
ここを離れて会いに行ったんだ。
その余韻を感じながら
再び目を瞑りそのまま朝を迎えた。
初夢に見ると縁起の良いものは
ひとつも出て来ませんでしたが
久しぶりに
アストラルトラベルを実感。
無意識には時間と空間の概念が無いので
こんなことが起こるんだなぁ…と。
母とはどんなに険悪な関係のときでも
新年の挨拶を欠かしたことはなかったので
今年も会えて良かったです。